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現状維持バイアスとマーケテイング

 行動経済学の成果のひとつに、現状維持バイアスという現象があります。このバイアスは、人々が現在の状態を維持しようとする傾向を指します。つまり、変化を選ぶことによって損失をこうむるよりも、現在の状態を保つことを好む傾向があるというものです。

 

 この現状維持バイアスは、日常のさまざまな場面で見られます。例えば、いつも同じ定食を注文すること、同じタバコの銘柄を選び続けること、新しい仕事の方法に抵抗を示すことなどが挙げられます。なぜこのようなバイアスが生じるのかは、行動経済学のプロスペクト理論に関連していますが、ここでは詳細は割愛します。

 

 人々が現状維持バイアスに陥る背後には、損失回避の心理が関与しています。人々は、得をするよりも損をしないことを重要視する傾向があります。そのため、新しいメニューや新しいタバコの銘柄を選ぶことで失敗する可能性を恐れ、現状維持を選ぶのです。

 

 しかしこのバイアスを打破する方法も存在します。新しい商品やサービスを売り込む際には、顧客に「損をしない」という側面をアピールすることが重要です。例えば、「省エネ効果で〇年で投資が回収できる」や「壊れにくい」といった特徴を強調することで、顧客は新しい選択肢に対する損失回避の心理的ハードルを下げやすくなります。

 

 また、感情による判断を避け、顧客が合理的な判断を行えるように導くことも重要です。新しい商品やサービスが品質や性能において既存の選択肢以上であることを明確に示すことで、顧客はブランドスイッチを検討しやすくなります。

 

 現状維持バイアスを克服するには、新しい選択肢が顧客にとってどのように有益であるかを説明し、損失を最小限に抑える方法を示すことが重要です。合理的な情報提供と損失回避の心理に訴えるアプローチを組み合わせることで、顧客の意思決定に新しい要素を取り入れることが可能です。